シェアアトリエに併設された、エキゾチックな雰囲気のカフェ
列車がゆっくりと徐行をはじめて飯能の駅舎に入るころ、ちょうど右手に見えてくる「AKAI FACTORY」という大きな文字。「AKAI FACTORY(通称:アカファク)」は、2016年4月に築70年の工場跡地にできたシェアアトリエ。「モクモクコーヒー」はその中に併設されている、飯能ではめずらしいエキゾチックな雰囲気のカフェだ。
店内には、シルバーアクセサリーやレザークラフトなどアカファクに入居するクリエーターの作品が展示販売されている。木製の大きな棚に並んだ普段あまり目にすることがない日本や海外の食材は、昔ながらの無添加の食材やオーガニックなど、こだわり抜いたもの。こんな食材が売ってるのね~、と男女問わず興味津々で見入ってしまうにちがいない。
モクモクコーヒー店主は、近藤 仁美さん。ちょっとはにかんだ笑顔がかわいらしい彼女自慢のコーヒーは同じアカファク内で焙煎工房を営む、父・近藤 光さんが焙煎したこだわりの豆を使っている。BGMのJAZZを聴き流しながら、ゆっくりとコーヒーをいただく時間は、まるで自分の家にいるかのようなくつろぎを感じる不思議なお店だ。
自由・異国・食。世界を見て洗練されたクリエイティブな感性
仁美さんと飯能の縁が生まれたのは、彼女が飯能市内の中高一貫校「自由の森学園」に入学を決めたときだ。自由な校風と在校生たちのフレンドリーなコミュニケーションが彼女の心を強く惹きつけた。卒業までの6年間、地元の埼玉県幸手市から片道2時間かけて飯能まで通いつづけたというから驚きだ。
高校卒業後は働きながらお金を貯め、海外旅行に行ってはまた働くという生活を繰りかえす日々。ヨーロッパ・アメリカ・東南アジア・中東・アフリカなど、今日までに渡航した国は合わせて18カ国にもおよぶ。高校卒業から5年が経ったあるとき、たまたま同級生の両親がオーナーだったことがきっかけで、憧れだった東大宮のカフェ&ギャラリー「温々(ぬくぬく)」のお店に立つことになった。さらに彼女はもう一つ、東大宮で自然食をあつかうお店でも働きはじめる。
2つのお店を掛けもちしながら「食」を極めつづけること7年。彼女が今のモクモクコーヒーで体にやさしい無添加の自然食品にこだわる原点はここにある。この「温々」は、今のご主人と出会った思い出の場所でもあった。ご主人と「温々」で働きながら、陶芸家でもあるオーナーから陶芸を教わった。
経験を活かし、夢を実現させる場所として再び飯能へ
ご主人と一緒に陶芸を学ぶうちに、クリエーター仲間と一緒に飯能でグループ展をひらくようになった。2015年に入って飯能にシェアアトリエができると聞き、見学に向かった仁美さん。そこはまだ何もない工場跡地だったけれど、ここからはじまる未来を想像したら夢がふくらんだと言う。すぐに飯能への移住を決意した。
それからしばらくして、アカファクをどのような場にするか話が進む中で「カフェがあったらいいよね」という声あがった。はじめは陶芸でアトリエを借りる予定だった仁美さんだが、自分のこれまでの経験を存分に活かせる良いタイミングだと思い、彼女はカフェの店主として飯能で暮らすことを選んだ。やがて、父・光さんも飯能に移住。アカファク2016年1月、「モクモクコーヒー」をオープン。少しずつファンや常連客を増やし、今や飯能には欠かせないコミュニティスペースとして人びとに愛されている。飯能市外からわざわざ足を運んで来るお客さんも増えてきた。
仁美さんのこれからの目標。それは、お店の運営のためにしばらくお休みしていた海外旅行を再びはじめること。彼女が外で見て、触れて、体験してきたものは、彼女の感性を通してお店や人びとに還元されるのかもしれない。店主の変化は、お店の変化だ。こんどはどんな変化を見せてくれのだろうか。これからのモクモクコーヒーがさらに楽しみになる。
text : aya nakazato
photo : kohei akai