緑に包まれた地ビールレストラン
2017年7月、飯能河原を望む風光明媚なロケーションをもつレストラン「CARVAAN」が誕生した。ゆったりとテーブルが配された総席数145席もの大空間、世界中から集められた調度品が醸し出す大人の雰囲気は今までの飯能にはなかった存在だ。レストランで供される料理はスパイスの効いたカレーやヘルシーなタジン料理、古代エジプトで食べられていたスペルト小麦を使ったパンなど中東の文化を取り入れたものが多い。他にもケールやキヌアを使った栄養価の高いサラダなど、野菜たっぷりなメニューもそろっているので女性にも喜んでもらえそうだ。
空間や料理も印象的だが、一番のウリはなんといってもオリジナルレシピで作られるクラフトビールだろう。定番ラインナップはライムが香る「アラビアンライム・エール」や古代小麦を使用した華やかな香りの「スペルト・ヴァイツェン」など個性あふれる4種類で、その他に季節限定のビールもそろう。これらのビールは全て館内にある醸造所でつくられていて、レシピの考案から醸造までを担っているブルワー(醸造家)の一人が伊藤謙二さんだ。
人とは違うものを生み出すために、全く新しいことへのチャレンジ
アートディレクターとして20年以上広告業界で働いていた伊藤さんは、いつかは自分で作りたいと思うほどビールが大好きだった。しかし、アメリカでは「ホームブルワー」がたくさん存在し新しいビールが生まれているのだが、日本では法律の問題があり個人でビールを作るのはとてもハードルが高い。そんなモヤモヤを抱えていたある時、ビール好きコミュニティの仲間から「ある会社がブルワーを募集しているらしい」という情報が届いた。その会社がCARVAANを運営している「株式会社 FAR EAST」だったのだ。
この会社では「物事の源流を考える」ことを大切にしており、既成概念に縛られない自由な発想でものを作り出す社風があった。例えばジェラートを作るとき、その起源と言われているアラビアの文化や誕生した時代背景生活などを学び、その要素を再構築することで他にはない一品が生み出される。そんな会社の方針がゼロからコンセプトを作りデザインするアートディレクターの経験を持つ伊藤さんにぴったりだった。その後、ブルワー歴13年のキャリアを持ち、各種のコンペでの受賞歴もある実力派の木村栄さんが加わり、華やかさと深いコクを併せ持つ個性豊かなクラフトビールが生まれたのだ。
新しい挑戦ができる余白のある町
「飯能はものづくりをするにはとても環境が良いと思います。自然を眺めながら仕事ができるなんてとても贅沢ですよね」と、伊藤さん。「CARVAAN」という言葉は英語の「caravan(隊商)」の語源になったペルシャ語に由来し、各国を旅することで様々な文化が混じり合い新しい文化が生まれる、そんな場所にしたいという想いが込められている。もしかしたらCARVAANは、彼らのように飯能を挑戦の場とした人間たちが集う場所になっていくのかもしれない。
text & photo : kohei akai